発信者情報の開示にまつわるプロバイダ責任制限法と電気通信事業者法の間の矛盾と対応

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何やら難しげなタイトルにしてしまいましたが、そんなお話。

僕たちのような、掲示板やSNSなどCGMサービス提供事業者、いわゆるプロバイダは、法的には、電気通信役務提供者と呼ばれたり、あるいは届け出をすると電気通信事業者と呼ばれたりもします。

サービスを提供するに当たって避けて通れないのが、発信者情報の開示請求というやつでして、インターネット上の書き込みによって、権利侵害を受けた当事者や、何かしらの事件を捜査している警察などから行われます。警察からの場合は、捜査関係事項照会書などといった形式が多いようです。

これを受けたプロバイダは、情報を開示するかどうかを判断しないといけないのですが、発信者の情報というのはいわゆる個人情報でして、安易に開示してしまうと、発信者から訴えられたりとリスクを伴います。仮に、警察から、刑事事件に関する操作で、上記の照会書を受けて開示したとしても、開示された発信者から訴えられる可能性はある、ということです。

そこで、プロバイダの責任を出来る限り小さくしようと制定されたのがプロバイダ責任制限法で、それを元に、関係団体がまとめたのがプロバイダ責任制限法関連情報ウェブサイトです。まあ、後者は法的な効力のないガイドラインにすぎないので参考までにということですが、いずれにしても、開示の可否はプロバイダ側で行わなければなりません。

ここで問題なのが、開示をすることが妥当か否かは、「権利侵害の明白性の有無」によって判断が別れるのですが、これは、「不法行為等の成立を阻却する事由の存在をうかがわせるような事情が存在しないことまでを意味する」と解されています。法的な言い回しで小難しいですが、

①情報の流通により権利が侵害されたこと

及び

②不法行為等の成立を阻却する事由の存在をうかがわせるような事情が存在しないこと

が認められる場合には、発信者情報の開示を行っていいよ、という法律です。

前者については、請求者が侵害されたと言われれば、ある程度は、請求者のいい分を信じるしかないような部分ではあるのですが、難しいのは後者です。

違法性阻却事由がないことという意味になりますが、違法性阻却事由とは、wikiによると「通常は法律上違法とされる行為について、その違法性を否定する事由をいう。」とのこと。

乱暴な書き方をしてしまうと、違法性阻却事由がなければ、開示をするのは妥当(発信者が間違い)、違法性阻却事由があれば、開示をしてはいけない(請求者が間違い)といったような意味になります。

では、違法性阻却事由とはどこで判断するかといいますと、

  • 事実の公共性
  • 目的の公共性
  • 真実性

が、全て揃っているかどうかということになります。
つまり、開示請求を受けても、その投稿が、公共の事実であり、また投稿の目的が公共のためのものであり、かつ真実である、と考えられるものについては、開示をしてはいけない、そうでない場合は開示をしてもプロバイダの責任にはなりませんよ、ということです。

ということで、プロバイダ側としては、これらの観点から開示の可否を検討するのですが、当然、この判断は、最終的には裁判によっても判断される部分でもあり、素人の僕らプロバイダ側がいくら頭をひねっても、完全な正解は求められません。そこで、ガイドラインでは、弁護士などの見解を元に判断するようにと書いてあるわけですが、弁護士の見解=裁判所の判決になるわけもなく、結果として、リスクを廃除するということはできないわけです。

ここで言うリスクとは、開示した後に、開示された発信者から訴えられるリスクです。

では逆に、そのリスクヘッジのために、請求を受けても開示しないとどうなるかといいますと、請求者からの訴訟リスクを抱えることになります。請求者は、発信者に何らかの権利侵害を受け、その損害賠償訴訟などの対応を視野に入れているわけで、開示がなされない以上は、開示を拒むプロバイダ側を訴える、あるいは、裁判手続きを持って、開示命令を裁判所に出して貰うという流れになります。

ここが、第二のリスク。

つまり、開示をしようがしまいが、プロバイダ側は、訴えられるあるいは裁判手続きにお付き合いするリスクがあるということになります。

ここで、タイトルの電気通信事業者法も出てくるのですが、電気通信事業者の届け出をしているプロバイダは、電気通信事業者法にも従わなければなりません。これによると、電気通信事業者は「通信の秘密を守る義務」があるとされていまして、そもそも、発信者の情報を開示すること自体が法令違反となるわけです。

届け出をしているかどうかで、その行為が法令違反になるかならないかが決められるのも矛盾を感じてしまいますが、そういうことなどもあり、プロバイダ関係者の間では、「裁判続きを経ない発信者情報の開示は行わない」というのが共通見解になっているそうです。

ただ、こうしてしまうと、自社への訴訟リスク、あるいは発信者法上の開示請求を飛び越えて、開示命令を求められる仮処分申請などの裁判手続きが、頻繁に行われることになりますので、仮に後者だけだとしても、非常に大きな費用が、それに費やされることにもなり、大手さんならまだしも、小さな企業にとっては死活問題です。

ここら辺、法整備がもっともっと進んでいくことを切に願うばかりではあるのですが、そんな動きも聞きませんし、中々難しいのでしょうね。

IT保険に入るとか、あるいは、運用上の対応で、法令順守という観点からは少しグレーゾーンに入ってしまうものの、極力リスクを減らす判断を都度行う、といった対応が求められてしまうわけです。

他の事業者さんはどうしてるんでしょうね。

こういった問題に関するコミュニケーションは、もっとしていきたいなぁ。





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